青春映画

2008年10月26日 (日)

「イントゥ・ザ・ワイルド」(ショーン・ペン)

 ショーン・ペンは生まれながらの不良顔を生かし、初期の「バッドボーイズ」「初体験リッジモンド・ハイ」等から、「デッドマン・ウォーキング」等、俳優として独自の存在感を放っている。最新作はガス・ヴァン・サントの新作で、ゲイの活動家ハーヴェイ・ミルクを演じるという。ペンは俳優としての活動と平行して監督として今まで3本の長編を発表しており、「インディアン・ランナー」(1991年)「クロッシング・ガード」(1995年)「プレッジ」(2001年)とどれも素晴らしい。70年代映画(ニューシネマ)に骨の髄まで浸かったような作風、熱っぽい演出には、クサいと思いつつも激しく心を揺さぶられる。実際、「インディアン・ランナー」と「クロッシング・ガード」は恥ずかしながら劇場で泣いてしまったもんなあ。

 そんなショーン・ペンの監督最新作「イントゥ・ザ・ワイルド」(2007)が公開されたので早速見に行く。仙台のミニシアター、チネ・ラヴィータにて。邦題は「荒野へ」で良かったような気もするな。

 大学を卒業したばかりの青年クリス(エミール・ハーシュ)は、卒業祝いに新車を贈ろうという両親(マーシャ・ゲイ・ハーデン、ウィリアム・ハート)の申し出を断り、預金をすべて慈善団体に寄付、家族には何も告げずに一人旅に出る。自分が私生児だったと分かると、名前を捨てて「アレクサンダー・スーパートランプ」と名乗り、ヒッチハイクでアメリカを縦断しながらアラスカを目指すが・・・。

 ジョン・クラカワーのノンフィクションを原作とした148分の大変な力作。若さゆえの無謀さと潔癖さ故に家を捨て、荒野に生きようとする主人公・・・と聞くと「自分探し」ってやつかよ、と吐き捨てたくなるところであるが、そこはショーン・ペン。実に説得力のある映画に仕上がっている。正直言って、ショーン・ペンのあまりの実直さに打ちのめされたという感じであった。ニューシネマ仕込みのざらついた映像、画面分割、音楽の使い方(登場人物の心情を綴ったような歌が流れる手法)、丹念な人物スケッチ、旅のディティール、大自然の中のサバイバル描写も実に面白い。

 主人公が旅の道中で出会う人々が皆リアルな陰影を持った顔つきで素晴らしかった。農園を営む訳ありの男ウェイン(ヴィンス・ヴォーン)、ヒッピーのカップル(キャサリン・キーナー、ブライアン・ダーカー)、革職人の老人ロン(ハル・ホルブルック)・・・。とりわけハル・ホルブルックが何とも味わい深い。ハル・ホルブルックといえば「ダーティハリー2」の悪い上司くらいしか思い浮かばないのだが、こんなにいい役者だったのかと驚いた。「インディアン・ランナー」のチャールズ・ブロンソンも良かったし、ショーン・ペンは老俳優の演出が上手い。この辺は俳優出身の監督ならではの持ち味かもしれない。

 主人公は様々な人々との出会いを経て、最後は徒歩でアラスカの雪原へと分け入る。打ち捨てられた廃バス(マジックバス!)を根城にサバイバル生活を送るが、やがて餓死してしまう。(そういった意味では「イントゥ・ザ・ワイルド」は「自分探し」と言うよりは自分探しに失敗した男の話なのだ)間違って毒草を食べてしまい衰弱しきった主人公は、死に際に両親と再会し抱き合う様を思い浮かべる。それで終わり、ではない。主人公はさらにこんな事を思うのだ。「もし両親の元へ戻ったら、自分が見た風景を、両親も理解してくれるだろうか?」廃バスの窓から見える抜けるような青空。それは主人公が最後に見た風景だ。これには泣いた。そしてこの映画は、旅を通じて主人公が再び「クリストファー・マッカンドレス」という本名を取り戻すまでの物語でもある。素晴らしい。やはりショーン・ペンは信頼できる。これからも新作が来たら必ず見に行くぞ。

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2008年8月 4日 (月)

「百万円と苦虫女」(タナダユキ)

仙台フォーラムにてタナダユキ監督の新作「百万円と苦虫女」見る。警察沙汰を起こして実家を飛び出したヒロイン鈴子(蒼井優)は、百万円を貯めては、海へ、山へと土地を転々と移り住むが・・・。

前作「赤い文化住宅の初子」は低予算の貧弱な映像が少々痛々しかったが、今回は蒼井優というスターを得て、実に堂々とした仕上がり。オリジナル脚本によるお話の面白さは勿論、キャラクター把握の的確さ、正攻法の演出が心強い。普通に面白い映画を見たという満足感があった。(そんな邦画、年に何本ある?)

ヒロインが百万円貯まる度に住処を変えていることを告白すると、バイト仲間の中島君(森山未來)は思わず「自分探しとか、そういうの?」と質問する。それに対して鈴子は「むしろ自分なんて探したくないし、自分が今ここにいるんだからそれが自分でしかないのだ」というような意味の事を答える。ここがこの映画の主眼であり、寡黙なヒロインが意を決して話すこの言葉はこの映画自体の意思表示なのだろうと思う。探すか、自分なんて。その意気や良し、である。

ヒロインが出会う男たち、植物に詳しい大学生の中島君(森山未來)、桃農家の息子(電気グルーヴのピエール瀧、素晴らしい好演!)、彼らがヒロインに対して示す好意を彼女が目にすることは無い。しかし映画がこの不器用な男たちの思いやりをきちんと救い上げるのが気持ち良く、タナダ監督の男性観を見るようで面白い、と言ったら言い過ぎか。古風な、というかむしろオヤジ趣味なのかもしれない。何しろ高田渡のドキュメンタリーを撮ったり、ムーンライダーズのメンバーをキャスティングしたりする女性だもんなあ。あ、そういえば映画の冒頭で、刑務所から娑婆に出たヒロインに「シャバダバ、シャバダバ・・・」(11PMのテーマ!)なんて口ずさませたりしてたっけ。

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2008年8月 1日 (金)

「赤い文化住宅の初子」(タナダユキ)

 ムーンライダーズの鈴木慶一がチョイ役で出演しているというので、タナダユキ監督「赤い文化住宅の初子」2007年)見る。原作は松田洋子の同名コミック。

 借金を抱えた父親は蒸発、母に先立たれ、兄と二人で文化住宅に暮らす中学生初子(東亜優)。家には電話も何もない貧乏暮らし。卒業後は好きな彼と一緒に東高に行こうと約束していたのに、貧乏のあまり就職を余儀なくされる・・・。

 冒頭はヒロイン(中学生の女の子)が「金、カネ、カネ、カネ・・・・」とつぶやきながら歩いている場面。町工場で働く兄貴が電気代使い込んで風俗嬢呼んだり、ヒロインが落ちてた10円拾ってネコババしたり、優しくしてくれたおばさんが宗教関係者だったり、しょうもない描写がてんこもり。なのだが、原作のミもフタもない筆致に比べるとかなり叙情に振り切った感じ。ヒロインに寄り添うように流れる音楽(担当は豊田道倫!)も優しい。ヒロインは「貧乏なんだけど元気で逞しく生きる少女」ではなくて、「あんまり喋らんから何を考えてるのかわからん」というような描き方をされてるのが面白い。短いエピソードを積み重ねていく手法が効果的で、タナダ監督の端正な演出力も感じるし、これでもう少し映像的な力があればなあと思う。せめてフィルム撮りで・・・と思うが。かなり低予算だったのだろうなあ。

 不幸なヒロインを演じる東亜優は生々しい存在感。松田洋子のキャラクターにしてはアホな感じが足りないという気もするが。脇では諏訪太朗(教師役)、佐倉萌(風俗嬢役)、大杉漣(父親役)ら黒沢清のVシネみたいな顔ぶれが楽しい。鈴木慶一は、ヒロインがバイトするラーメン屋の店主役。むっつりした嫌な感じの役で面白かった。

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2008年7月24日 (木)

「リバース・エッジ」(ティム・ハンター)

 クリスピン・グローヴァー出演作、「リバース・エッジ」(1986)見る。DVDのジャケットはキアヌ・リーヴスとデニス・ホッパーのアップだが、実質の主役はクリスピン・グローヴァーだ。監督は「ツインピークス」等TVを中心に活躍しているティム・ハンター。

 初見は1993年なので、実に15年ぶりに見直したのであるが、変わらず面白かった。青春の叫びとかそんなのとは全く違う、陰鬱な空気感には激しく共感する何かがある。

 映画は色黒、いや白青とでもいうようなざらついた画面から始まる。最初TVのホワイトノイズかと思うが、ゆっくりとカメラがズームバックしていくと、それは河の流れだったことが分かる。バックには奇妙にドラマティックな響きを伴った音楽が流れている。音楽は「アメリカの友人」等初期ヴィム・ヴェンダース映画でお馴染みのユルゲン・クニーパー。どんよりとした曇り空、雨上がりなのか河の水は茶色く濁って激しく流れていく。橋の上から河を見下ろしている少年。手にした人形をぽとりと河に捨てる。河の流れに揉まれ流されていく人形。遠くの土手に男がいるのが見える。あれは少年の兄貴の友人だ。ずんぐりとした体型の男は若いのか年寄りなのか分からない妙に疲れた風貌をしている。うつろに彷徨う男の視線。その傍ら、草の上に全裸の女が横たわっている。女の白い肌、見開かれた目。死んでいるのか。橋の上から見ていた少年はマウンテンバイクにまたがり、走り出す。

 この無言のプロローグから、女の葬式で締めくくられるエピローグまで、憂鬱な描写の数々がじわじわと胸を締めつける。

 田舎の町に生まれて、まだ高校生で、ダチが死んで、でも泣けなくて、犯人もダチのひとりで、皆でハッパを吸って、家族が揉めてて、マウンテンバイク乗り回す反抗的な弟がいて、夜中出歩いて、仲間のうちでは結構可愛い子と寝て、カーステレオからスラッシュメタルが流れて、一軒家にダッチワイフと暮らす変人にハッパをねだって、サツにたれこんで、ダチをチクったことに少しだけ痛みがあって、弟を殴って、河に向けて銃を撃って、叫んだらこだまして、夜が明けて、またダチが死んで・・・。でも何も変わらない。頼まれも喜ばれもしないのにダチを救うんだと走り回る不良、女の死に誰も反応を示さないことに怒る教師。彼らだけが感情を剥き出しにするが、その感情を受け止める者がいない。彼らはこの映画でひどく浮いている。そんなことをしても無駄なのだ。この田舎町を覆う曇天の下、少しずつ、ゆっくりと、全てが駄目になっていくのだろう。

 グローヴァーはグループのリーダー格である不良のフェック役で繊細な魅力を見せる。友人を警察に密告したことを悩むマットは若き日のキアヌ・リーヴス。デニス・ホッパーはダッチワイフと暮らす変わり者の役。グループの一員を演じるアイオン・スカイ・レイッチは何とドノヴァンの娘。マットの反抗的な弟を演じるジョシュア・ミラーはジェイソン・ミラー(「エクソシスト」のカラス神父!)の息子だという。

 アメリカの田舎町を舞台にした陰気な青春映画として、本作と「アウト・オブ・ブルー」(デニス・ホッパー)、「ガンモ」(ハーモニー・コリン)はまるで兄弟のような存在だと思う。

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2008年7月20日 (日)

「東京フレンズ The Movie」(永山耕三)

友人のキャラハン警部が「東京フレンズ The MovieのDVDを送りつけてきた。人気の女性シンガー、大塚愛が主演したDVDドラマ「東京フレンズ」の映画版、らしい。キャラハン警部が大塚愛のファンという話も聞かないし、こちとら催促した記憶も無いので、恐らく嫌がらせだろう。不幸の手紙かっての。

高知から上京したヒロイン玲(大塚愛)は、居酒屋でアルバイトをしながら、ロックバンド“サバイバル・カンパニー”のヴォーカルとして活動していた。玲をバンドに引き込んだギターの隆司(瑛太)はバンドを辞め、N..に旅立った。バンドのデビューを控え、隆司への想いを断ち切れない玲は、バイト仲間の助けを借りて単身渡米するが・・・。

とんでもなくステレオタイプな設定、演出のオンパレードで突っ込みどころ満載。悩みながら夢に向かって前進していく等身大の青春群像・・・のつもりなんだろうが、全てが一片のリアリティも無い絵空事。下北で本気でバンドや演劇やってる人たちが見たら鼻で笑われちまうと思うよ。大塚愛はじめ主要人物の誰も下北という舞台に相応しいサブカルな香りを身にまとっていないのは大問題だろう。オリジナル版を見ていないとか、大塚愛のファンじゃないとか、この自称「映画」を楽しむにはハンディが多いにしても、底が抜けた日本映画の現状を目の当たりにしたようでゾッとさせられたというのが正直なところ。元カレとよりを戻して一夜明かした翌朝、ヒロインが彼の白い長袖のYシャツを着て卵を焼いている・・・とか、空港で帰国する彼女を見送る男が「言えなかった事がある、I Love You!」などと大声で叫ぶ・・・とかいう今時びっくりするような演出はきっとオヤジに違いないと思ったが、案の定監督はTV畑の永山耕三。脚本もきっと男が「今時の恋愛ってこんな感じ?」「女の友情ってこんな感じ?」と想像で書いたものだろうと思ったら、女性(衛藤凛)なのな。いくら何でも酷過ぎる。こんなので夢見ることを強要されてもなあ・・・。

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2008年3月 2日 (日)

「天才マックスの世界」(ウェス・アンダーソン)

ウェス・アンダーソン監督「天才マックスの世界」(1998)見る。劇場未公開のヴィデオスルーながら各方面で人気の高い1作。

ラッシュモア校に通う少年マックス(ジェイソン・シュワルツマン)は、人並み外れた才能を持ちながら、多数の部活を掛け持ちして留年を続ける変わり者。いじめっ子の父親(ビル・マーレィ)と美人教師を巡って三角関係に陥ったり、波乱に富んだ学園生活を送っていた・・・。

かなりヒネった学園もので実に面白かった。同監督の「ロイヤル・テネンバウムス」は映像作りすぎな感じがしていまいち乗り切れなかったが、これは良かった。何しろシナリオが物凄く独創的だと思う。どんな話に発展していくのかさっぱり予想がつかなかった。(脚本はウェス・アンダーソンとオーウェン・ウィルソン)「セルピコ」の芝居をやるくだりには爆笑。個人的に弱いところを突かれた箇所がいくつかあって泣けた。うん、スタイリッシュ過ぎずに生っぽい感情の部分が残されてるのが面白かった要因かもだ。

主演のジェイソン・シュワルツマン(コッポラの甥っ子、母親はタリア・シャイア)、ビル・マーレイはもちろん、主人公の父親シーモア・カッセル、学長ブライアン・コックスら脇の俳優陣も面白い。

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