「イントゥ・ザ・ワイルド」(ショーン・ペン)
ショーン・ペンは生まれながらの不良顔を生かし、初期の「バッドボーイズ」「初体験リッジモンド・ハイ」等から、「デッドマン・ウォーキング」等、俳優として独自の存在感を放っている。最新作はガス・ヴァン・サントの新作で、ゲイの活動家ハーヴェイ・ミルクを演じるという。ペンは俳優としての活動と平行して監督として今まで3本の長編を発表しており、「インディアン・ランナー」(1991年)「クロッシング・ガード」(1995年)「プレッジ」(2001年)とどれも素晴らしい。70年代映画(ニューシネマ)に骨の髄まで浸かったような作風、熱っぽい演出には、クサいと思いつつも激しく心を揺さぶられる。実際、「インディアン・ランナー」と「クロッシング・ガード」は恥ずかしながら劇場で泣いてしまったもんなあ。
そんなショーン・ペンの監督最新作「イントゥ・ザ・ワイルド」(2007年)が公開されたので早速見に行く。仙台のミニシアター、チネ・ラヴィータにて。邦題は「荒野へ」で良かったような気もするな。
大学を卒業したばかりの青年クリス(エミール・ハーシュ)は、卒業祝いに新車を贈ろうという両親(マーシャ・ゲイ・ハーデン、ウィリアム・ハート)の申し出を断り、預金をすべて慈善団体に寄付、家族には何も告げずに一人旅に出る。自分が私生児だったと分かると、名前を捨てて「アレクサンダー・スーパートランプ」と名乗り、ヒッチハイクでアメリカを縦断しながらアラスカを目指すが・・・。
ジョン・クラカワーのノンフィクションを原作とした148分の大変な力作。若さゆえの無謀さと潔癖さ故に家を捨て、荒野に生きようとする主人公・・・と聞くと「自分探し」ってやつかよ、と吐き捨てたくなるところであるが、そこはショーン・ペン。実に説得力のある映画に仕上がっている。正直言って、ショーン・ペンのあまりの実直さに打ちのめされたという感じであった。ニューシネマ仕込みのざらついた映像、画面分割、音楽の使い方(登場人物の心情を綴ったような歌が流れる手法)、丹念な人物スケッチ、旅のディティール、大自然の中のサバイバル描写も実に面白い。
主人公が旅の道中で出会う人々が皆リアルな陰影を持った顔つきで素晴らしかった。農園を営む訳ありの男ウェイン(ヴィンス・ヴォーン)、ヒッピーのカップル(キャサリン・キーナー、ブライアン・ダーカー)、革職人の老人ロン(ハル・ホルブルック)・・・。とりわけハル・ホルブルックが何とも味わい深い。ハル・ホルブルックといえば「ダーティハリー2」の悪い上司くらいしか思い浮かばないのだが、こんなにいい役者だったのかと驚いた。「インディアン・ランナー」のチャールズ・ブロンソンも良かったし、ショーン・ペンは老俳優の演出が上手い。この辺は俳優出身の監督ならではの持ち味かもしれない。
主人公は様々な人々との出会いを経て、最後は徒歩でアラスカの雪原へと分け入る。打ち捨てられた廃バス(マジックバス!)を根城にサバイバル生活を送るが、やがて餓死してしまう。(そういった意味では「イントゥ・ザ・ワイルド」は「自分探し」と言うよりは自分探しに失敗した男の話なのだ)間違って毒草を食べてしまい衰弱しきった主人公は、死に際に両親と再会し抱き合う様を思い浮かべる。それで終わり、ではない。主人公はさらにこんな事を思うのだ。「もし両親の元へ戻ったら、自分が見た風景を、両親も理解してくれるだろうか?」廃バスの窓から見える抜けるような青空。それは主人公が最後に見た風景だ。これには泣いた。そしてこの映画は、旅を通じて主人公が再び「クリストファー・マッカンドレス」という本名を取り戻すまでの物語でもある。素晴らしい。やはりショーン・ペンは信頼できる。これからも新作が来たら必ず見に行くぞ。
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