犯罪映画

2008年10月11日 (土)

「ノーカントリー」(ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン)

ようやく見ましたコーエン兄弟のアカデミー賞受賞作「ノーカントリー」(2007)。原題はNO COUNTRY FOR OLD MEN、映画を見終えてみるとその意味がじわじわと染みてくるようだ。

テキサスの荒野で、麻薬取引絡みの大金を持ち逃げしたモス(ジョシュ・ブローリン)。その後を組織から依頼を受けた殺人者シガー(ハビエル・バルデム)、事件を捜査する老保安官ベル(トミー・リー・ジョーンズ)が追跡するが・・・。

コーエン兄弟といえば、「ブラッドシンプル」(1984年)以降、ほぼリアルタイムで見ていると思う。「バートン・フィンク」「ファーゴ」「ビッグ・リボウスキ」なんかとても好きで、ノワール・ジャンル寄りなところも興味を惹かれてきた。が、ここ何作かはどうも喋りすぎっていうか画面作りこみすぎっていうかお勉強臭いっていうか、必要以上に饒舌な感じがして嫌だった。モノクロの犯罪映画「バーバー」(2001年)なんて企画は悪くないし実際かなりいいセンいっってると思ったが何か小賢しい感じがして好きになれなかった。話題作「ノーカントリー」を劇場まで見に行くのを躊躇してしまったのもそんな理由による。

で、本作。これは間違いなくコーエン兄弟近年のベストワークと言って差し支えないであろう。不安要素だった不必要な饒舌さは皆無。何せ必要以上の説明が一切省かれており、映画はシンプルこの上ない。全編歯切れの良い描写で緊迫感が途切れない展開で、犯罪映画ってやっぱりこうじゃなきゃいかんと膝を打つ面白さ。即物的なバイオレンス描写も素晴らしい。実のところテーマはかなり重たいもので、鑑賞後は虚無感に囚われること必至の暗さではあるが、そんな後味の悪さも良い。トミー・リー・ジョーンズの疲れ顔(かつてならロバート・ライアンの役どころか?)、インパクト絶大なハビエル・バルデム、ジョシュ・ブローリンら陰影に富んだ存在感を見せる役者たちの名演技は素晴らしい。思わせぶりに登場する仕事人ウディ・ハレルソンの扱いには大笑いだ。

映画の前半で、殺戮現場から金を持ち逃げしたモスが、死にかけのギャングが水を欲しがっていたのが忘れられず夜中にまた現場に戻ってしまう場面がある。そのせいでモスは足が付いて組織に追い回されることになるのだが、このモスの行動について映画は必要以上の説明をしない。そこがいい。モスの優しさから出た行動なのか、後半モスがベトナム帰還兵であることがわかるのでもしや戦場で似たようなことがあったのかもしれないなあ、とか観客は想像するだけだ。

映画の最後は、引退した保安官が妻に夢の話をする場面。画面が暗転し、エンディングクレジットになって始めて音楽が流れ、奇妙な余韻を残したまま映画は終わる。そういえばコーエン兄弟の旧作「赤ちゃん泥棒」の最後も夢の場面だったなと思い出した。それまでのスラップスティックなトーンと明らかに違った奇妙な夢の話で終わるのが印象的だった。

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